里親制度
里親制度とは、児童福祉法に基づく制度のひとつであり、保護者のいない児童や、保護者である親の病気や離婚、行方不明などのさまざまな事情により家庭で生活できない児童の養育を、都道府県知事が適当と認めた人(里親)に委託し、家庭的な環境の中で養育しようとするものです。
里親制度の意義
国は『里親委託ガイドライン』の中で、身寄りのない子供などの養育を里親家庭に委託することによって、次のような効果が期待できるものとしています。
- 特定の大人との愛着関係の下で養育されることにより、自己の存在を受け入れられているという安心感の中で、自己肯定感を育むとともに、人との関係において不可欠な、基本的信頼感を獲得することができる
- 里親家庭において、適切な家庭生活を体験する中で、家族それぞれのライフサイクルにおけるありようを学び、将来、家庭生活を築く上でのモデルとすることが期待できる 家庭生活の中で人との適切な関係の取り方を学んだり、身近な地域社会の中で、必要な社会性を養うとともに、豊かな生活経験を通じて生活技術を獲得することができる
里親制度の対象
身寄りのない子供らを委託を受けた家庭で預かる里親制度については、対象となる児童などについてもさまざまな決まりごとがあります。
まず、預かる子供の年齢については、原則として児童福祉法第4条第1項にいう児童、すなわち0歳~18歳未満の子供(延長の場合は20歳未満)となります。
養育の期間については、数か月の場合もあれば、その子供が自立するまでという場合もあり、児童の家庭環境により大きく異なります。養子縁組を前提として、実子と同様に養育する場合もあります。
養育する人数については、委託された児童が4人まで、実子などとあわせて同時に養育できるのは6人までとされています。「専門里親」という制度の場合には、委託児童の人数が2人を超えることはできません。
里親制度の法的根拠
児童福祉法(昭和22年法律第164号)には、里親制度について、次のような規定があります。
第六条の四 この法律で、里親とは、次に掲げる者をいう。
一 内閣府令で定める人数以下の要保護児童を養育することを希望する者(都道府県知事が内閣府令で定めるところにより行う研修を修了したことその他の内閣府令で定める要件を満たす者に限る。)のうち、第三十四条の十九に規定する養育里親名簿に登録されたもの(以下「養育里親」という。)
二 前号に規定する内閣府令で定める人数以下の要保護児童を養育すること及び養子縁組によつて養親となることを希望する者(都道府県知事が内閣府令で定めるところにより行う研修を修了した者に限る。)のうち、第三十四条の十九に規定する養子縁組里親名簿に登録されたもの(以下「養子縁組里親」という。)
三 第一号に規定する内閣府令で定める人数以下の要保護児童を養育することを希望する者(当該要保護児童の父母以外の親族であつて、内閣府令で定めるものに限る。)のうち、都道府県知事が第二十七条第一項第三号の規定により児童を委託する者として適当と認めるもの
第二十七条 都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一~二 (略)
三 児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。
四 (略)
里親の種類
里親の種類は、法令によって養育里親、専門里親、養子縁組里親、親族里親の4種類に分けられています。
養育里親とは、保護者のいない児童や、親の病気、家出、離婚その他の事情により家庭で生活できない児童(「要保護児童」といいます。)を養育する、血のつながりのない里親のことをいいます。
専門里親とは、大きく見れば養育里親に含まれるものですが、児童虐待を受けた子供や障害児などの専門的な援助を必要とする児童を、2年以内の期間(延長可)を定めて養育する里親のことです。この里親の申請には一定の要件が必要です。
養子縁組里親とは、要保護児童を養育する里親のうちでも、特に民法に定める養子縁組制度を用いて里親となるものをいいます。
親族里親とは、次の要件を満たす要保護児童を養育する里親のことです。
- 当該親族里親の三親等内の親族であること。
- 両親、その他要保護児童を現に監護する者が死亡、行方不明又は拘禁等の状態となったことにより、これらの者による養育が期待できないこと。
里親になる条件
里親になるためには、児童福祉法第34条の20の規定などにより、次のような要件が設けられています。また、被虐待児童、障害児、非行児童などを預かる「専門里親」とよばれるものについては、これ以外にもさまざまな要件があります。
- 里親を希望する本人又は同居人が欠格事由に該当しないこと。
- 本人又は同居人が、成年被後見人又は被保佐人でないこと。
- 本人又は同居人が、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者でないこと。
- 本人又は同居人が、児童虐待を行った者その他児童の養育に不適当な者でないこと。
- 経済的に困窮していないこと。
- 所定の研修を修了していること。
里親の養育
里親による要保護児童の養育は、児童ごとに児童相談所が作成する「養育計画書」に従って、養親としての社会的立場に基づき行うことになります。
委託期間中、児童相談所でも子供の発達に関する相談などが受けられますが、里親の方も児童ごとに「委託児童の養育の状況に関する記録」を作成して、子供の心身の状況の変化などを定期的に報告しなければなりません。
ただし、里親は正当な理由なく、第三者に対しては児童やその家族についての秘密を漏らしてはならないこととされています。
里親と費用
里親が要保護児童を養育するにあたっては、さまざまな費用が掛かります。このため、委託期間中については、里親手当、委託児童に関する生活費、教育費、医療費などが公費で受けられるしくみとなっています。
その金額は年度ごとに定められる措置費基準により計算され、里親の指定口座に振り込まれますが、その都度申請を要するものもあります(以下は令和4年度現在)。
里親手当
児童1人当たりの定額が、委託期間中、養育里親及び専門里親に対して支給されます。なお、養子縁組による里親などには支給されません。
- 養育里親 90,000円(2人目以降は90,000円)(月額)
- 専門里親 141,000円(2人目は141,000円)(月額)
一般生活費
食費、被服費などの日常生活に必要な経済的諸経費として支給されます。乳児(1歳未満)とそれ以外の区分があります。月途中の新規委託の場合は、日割り計算により支給されます。
- 乳児 60,670円(月額)
- 乳児以外 52,620円(月額)
その他
幼稚園費、教育費、入進学支度金、就職、大学進学等支度費、医療費等などが支給されます。申請にあたって領収書、定期券発売証明書、学校が発行する証明書(教材費、給食費など)が必要な場合があります。
里親になる手続き
里親になるためには、まず管轄の児童相談所に相談の上で、次のようにいくつかの手続きを踏むことになります。これらは、里親としてふさわしくない人・環境を排除するためには必要なプロセスです。
児童相談所への相談
里親になりたいと希望する人は、まず、住所地を管轄する児童相談所に里親の相談をします。ここで里親制度の目的や内容などについて十分な説明を受けたのち、納得すれば申請となります。
なお、児童相談所のほか、民間の里親支援機関が相談に対応している場合や、これらの機関が里親説明会を定期的に開催していることがあります。
里親認定の申請
里親を希望する場合は、都道府県知事あてに認定申請の書類を提出する必要があります。申請書の提出先は、管轄の児童相談所です。申請用紙は児童相談所に備え付けられていますが、ほかに同居家族の履歴書や家屋の平面図(養育する場所の広さなどがわかるもの)、研修の修了証などの提出を求められることがあります。
里親希望者への調査
申請書が提出されると、児童相談所の職員が家庭訪問をして、生活環境などをチェックするとともに、里親を志望した動機、過去の子供の養育経験などについての聴き取り(面接)を行い、里親として適当かどうか調査します。
基礎研修・認定前研修の受講
児童福祉法の規定により、里親は所定の研修を修了することが認定の要件となっているため、この期間に基礎研修と認定前研修を受講することになります。この研修は、都道府県庁が自ら行う場合もありますが、委託された社会福祉法人などが行うこともあり、講義のほかに児童福祉施設での実習などを含みます。標準的なカリキュラムでは、あわせて6日程度となります。
児童福祉審議会の意見聴取
児童相談所の職員による調査結果は、児童相談所長の意見を付して都道府県知事に送付されます。その後、児童福祉法第8条第1項の規定により各都道府県などに置かれている児童福祉審議会において、里親として適格かどうかの審議が行われます。
里親の認定と名簿登録
都道府県知事は、児童福祉審議会の意見に基づき里親の認定を行い、その旨が申請者に通知されます。あわせて都道府県の里親名簿にその名前が登録されます。
里親と研修
児童福祉法の規定により、養育里親の希望者については、里親認定の条件として、事前に所定の研修を受けることになっているほか、認定後にも定期的に研修を受ける必要があります。
こうした研修は都道府県ごとに行われていますが、標準的な内容としては、概ね次のとおりとなっています。
種類 | 趣旨 | 日数 |
---|---|---|
基礎研修 | 養育里親を希望する者を対象とした基礎研修 | 講義1日、実習1日程度 |
認定前研修 | 基礎研修を受講し、里親について概要を理解した上で、本研修を受講する。修了した後養育里親として認定される。 | 講義2日、実習2日程度 |
更新研修 | 認定または更新後5年目の養育里親。認定有効期間内に受講し認定更新する | 講義1日(未委託里親は施設実習1日が必要) |
基礎研修
基礎研修は、養育里親を希望する者を対象とした、基礎的な内容の研修です。その標準的なカリキュラムは、おおむね次のとおりとなっています。
目的
- 社会的養護における里親制度の意義と役割を理解する
- 今日の要保護児童とその状況を理解する(虐待、障害、実親がいる等)
- 里親に求められるものを共有する(グループ討議)
実施機関
- 都道府県(法人、NPO等に委託可)
期間
- 講義・演習1日
- 実習1日程度
内容
- 里親制度の基礎Ⅰ
- 要保護児童の理解について(例:社会的養護の下で生活する児童)
- 里親以外の子育て支援について(例:地域の子育て支援サービス)
- 先輩里親の体験談・グループ討議(例:里親希望の動機、里親に求められるもの)
- 実習(児童福祉施設の見学を主体にしたもの)
認定前研修
認定前研修は、基礎研修を受講し、里親について概要を理解した人が受講するもので、養育里親として認定されるためには、この研修を修了することが条件です。その標準的なカリキュラムは、おおむね次のとおりとなっています。
目的
- 社会的養護の担い手である里親として、子どもの養育を行うために必要な知識と子どもの状況に応じた養育技術を身につける
実施機関
- 都道府県(法人、NPO等に委託可)
期間
- 講義・演習 2日
- 実習 2日程度
内容
- 里親制度の基礎Ⅱ(里親が行う養育に関する最低基準)
- 里親養育の基本(マッチング、交流、受託、解除までの流れ、諸手続等)
- 子どもの心(子どもの発達と委託後の適応)
- 子どもの身体(乳幼児健診、予防接種、歯科、栄養)
- 関係機関との連携(児童相談所、学校、医療機関)
- 里親養育上の様々な課題
- 児童の権利擁護と事故防止
- 里親会活動
- 先輩里親の体験談・グループ討議
- 実習(児童福祉施設、里親)
更新研修
更新研修は、認定または更新後5年目の養育里親を対象とした研修で、認定有効期間内に受講し、里親としての認定を更新する必要があります。その標準的なカリキュラムは、おおむね次のとおりとなっています。
目的
- 養育里親として児童の養育を継続するために必要となる知識、新しい情報等を得る。
実施機関
- 都道府県(法人、NPO等に委託可)
期間
- 講義・演習 1日程度
- なお、未委託の里親の場合は施設実習(1日)が必要
内容
- 社会情勢、改正法など(例:児童福祉法、児童虐待防止法)
- 児童の発達と心理・行動上の理解など(例:思春期心性、問題行動への対応)
- 養育上の課題に対応する研修(例:自立、告知について)
- 意見交換(例:養育に関する相談相手、レスパイトの利用、利用できる各種奨励金の受給申請方法)
里親の委託を受けるまでの流れ
児童福祉法による里親名簿に登録されたからといって、直ちに里子となる子供が家庭にやってくるわけではありません。対象となる子供の福祉にとって最適の選択であるかどうかが慎重に判断された後のこととなります。
里親として都道府県知事の認定を受け、里親名簿に登録されてから、実際に里親の委託があるまでの一般的な流れは、おおむね次のとおりとなります。
里親・里子のマッチング
児童相談所では、子供の心身の状況、里親の家庭状況などを検討し、それぞれの子供にとって最適な里親の候補者を選定し、委託を打診します。
子供との面会
里親の打診を受けて、受ける意思を示した場合には、児童相談所が設置する一時保護所やその他児童福祉施設に行き、児童相談所の職員立会いのもとで、初めての面会をします。
子供との交流
何度か面会をしてお互いに慣れてきた段階で、一緒に外出をしたり、外泊をしたりして、親密さを増してゆきます。最後のころになると、1週間程度の里親家庭への外泊も認められるようになります。
里親の委託
児童相談所では、この間の交流の様子を見て、子供と里親双方の意見を聴いて、適当と認めた場合には里親の委託を決定します。
専門里親とは
「専門里親」とは、虐待を受けた子供、非行歴のある子供、心身に障害のある子供などを養育する里親のことをいい、児童福祉法施行規則第1条の36に規定されています。これは被虐待児童の増加などを背景として、平成14年度に創設された新しい制度です。
こうした子供たちについては、特に温かい家庭環境のなかで養育することが大切であると考えられており、また一般の子供よりも対応が難しい場合が多いことから、同じ里親のなかでも一定の専門性が求められています。
専門里親になるための要件
専門里親になるための条件は、一般の養育里親よりも厳しく、具体的には次のとおりとなっています。
- 次に掲げる要件のいずれかに該当していること。
- 養育里親名簿に登録され、3年以上の養育経験がある者であること。
- 3年以上児童福祉事業に従事し、都道府県知事が認めた者であること。
- 都道府県知事が、上記と同等以上の能力があると認定した者であること。
- 専門里親研修の課程を修了していること。
- 心身ともに健全であること。
- 児童の養育についての理解及び熱意並びに児童に対する豊かな愛情を有していること。
- 委託児童の養育に専念できること。
- 経済的に困窮していないこと。
- 児童の養育に関し虐待等の問題を起こしたことがないこと。
- 児童福祉法及び児童買春処罰法により罰金以上の刑に処せられたことがないこと。
なお、児童福祉事業への従事経験として認められるのは、具体的には次のような資格のことです。
- 福祉関係
- 児童自立支援専門員、児童指導員、保育士、児童福祉司、社会福祉士、精神保健福祉士、心理判定員
- 保健・医療関係
- 医師、保健師、助産師、看護師
- 教育関係
- 教員
- 司法・矯正関係
- 家庭裁判所調査官、少年院教官
里親として守るべき最低基準
里子として預かった子供が心身ともに健やかに成長するために、里親として最低限守らなければならない基準というものがあります。これは公式には「里親が行う養育に関する最低基準」と題するもので、厚生労働省の省令(現在は内閣府の外局である「こども家庭庁」に移管)として定められています。
その要点を書き出すと、おおむね次のとおりとなります。
- 養育の一般原則
- 児童の自主性を尊重し、基本的な生活習慣を確立するとともに、豊かな人間性及び社会性を養い、児童の自立を支援することを目的として養育すること。
- 平等に養育する原則
- 実子や他の児童と比較したり、国籍、信条、社会的身分によって差別的に養育しないこと。
- 虐待の禁止
- 児童虐待その他児童の心身に有害な影響を与える行為をしないこと。
- 教育
- 養育する児童に対して義務教育のほか必要な教育を受けさせなければならないこと。
- 健康管理
- 児童の健康状態に留意するとともに、正しい食事への理解と習慣を養うこと。
- 衛生管理
- 児童の使う食器や飲み水などの衛生管理に気を遣うこと。
- 金銭管理
- 里親としての給付金として支払いを受けた金銭は、他の財産とは分けて児童のための使うこと。
- 自立支援計画の遵守
- 児童相談所があらかじめ作成した自立支援計画(養育計画)に従って養育すること。
- 秘密保持
- 正当な理由なく、児童やその家族の秘密を他人に漏らさないこと。
- 記録の整備
- 里親は児童の養育の状況に関する記録を整備しなければならないこと。
- 苦情への対応
- 養育についての児童からの苦情には適切に対応し、都道府県から指導・助言があればこれに従って改善すること。
- 都道府県知事への報告
- 児童の心身の状況、養育状況その他を定期的に都道府県に報告するほか、事故などがあった際にも報告しなければならないこと。
- 関係機関との連携
- 里親は児童相談所、学校その他の関係機関と密接に連携すること。
里親の立場と懲戒権
養育里親は、もとより里子となっている子供とは血のつながりもなく、都道府県知事から養育の委託を受けただけですので、養子縁組としない限りは法律上の親子関係も発生しません。法律上の親子関係は、引き続き実親のほうにあることになります。
ここで問題となるのが、実親に認められているのと同じように、しつけのための懲戒権などが里親にもあるのかどうかですが、平成16年の児童福祉法の改正によって、民法で定められている「親権」のうち、「監護権」「教育権」「懲戒権」の3つの権利が明文として里親にも認められました。
これによって、里親は児童福祉法にいうところの里子の「保護者」であって、子供をしつけ、必要な教育を受けさせ、身の回りの世話をして育て上げるという役割があることが、公にも明らかになったといえます。
ただし、「里親として守るべき最低基準」にもあるとおり、懲戒権は児童の健やかな成長を目的として認められているものですので、単に肉体的苦痛を与えたり、人格を侮辱することを目的としたものは、当然ながら認められません。虐待にあたると判断された場合には、児童福祉法の規定(欠格条項)によって、里親名簿から削除されることとなります。
里子の住民票
養育里親の場合、里子との法律的な親子関係は未だ実親にありますが、実際に里子を監護するのは里親のほうになります。
したがって、本籍に変更はなくても、里子の住民票については、実親のもとから里親のもとへと移される(転入)ことになります。
通常、里親の委託がある際には、児童相談所から渡される書類のなかに、実親の住む市町村が発行した「転出証明書」が含まれているはずですので、これを里親が市町村役場に届けて里子の住民登録をします。
住民票の続柄
住民票の「続柄」の欄には、住民票を取得する本人と世帯主との関係が記載されます。この欄には「世帯主」「夫」「子」「母」などが入るのが普通ですが、里親と里子との間には親子関係はありませんので、里子が住民登録をした場合、この「続柄」の欄は「同居人」か「縁故者」の記載となります。
なお、国民のプライバシー意識の高まりを踏まえた平成6年の自治省(現総務省)通達により、里子であっても「養子」の場合には、「続柄」の記載は実子と同様の「子」に改められています。
里子の姓
里親とは法律的な親子関係のない里子の場合、戸籍の内容にも変更はありませんので、住民票をはじめとする公的な身分証明証(健康保険証、パスポートなど)に記載される里子の姓(苗字)は、実親のものとなります。
ただし、便宜的に小学校などでは協議の上で里親の姓を名乗らせ、日常的に使用する場合も多いようです。
小・中学校への転入学
里子に義務教育を受けさせるのは里親としての義務になります。
里子の住民登録を住民課で済ませると、教育委員会の窓口では「転入学通知書」が渡されます。
この書類とは別に、里子の委託の際には、前の学校で発行した「在学証明書」と「教科書用図書給与証明書」を児童相談所から受け取っているはずです。
以上の3点の書類をもって、指定された学校で転入学の手続きをとります。
なお、教科書は無償で配布され、その後必要となる教材費などについても公費負担となりますが、教材については学校で「教材費証明書」を発行してもらい、これを添付して児童相談所に経費の申請をすることになります。
保育園・幼稚園への入園
里親の就労などによって、里子が「保育に欠ける」状態になった場合については、児童相談所の判断によって保育園を利用することができ、その経費は公費負担となります。
また、幼稚園についても、就園に必要な費用は公費負担となります。
これらの費用については、領収書を添付して児童相談所に経費の申請をすることになります。
里子と医療の受診
里子が病気やケガをした場合には、里親の監護権が及ぶ範囲ですので、実親への相談なしに医療機関にかかることができます。ただし、手術などの場合は医療機関から親権者の同意を求められることが多いため、児童相談所とともに実親と協議することになると思われます。
里子が医療機関を受診した場合の費用についてですが、これは実親の方の健康保険でまかなわれますので、委託時に児童相談所から実親の保険証の「遠隔地被扶養者証」が渡されているはずです。また、通常は窓口で支払う自己負担分についても、里親制度のなかでは公費負担となっていますので、自治体が発行した「受診券」を使用します。
里子の事故の場合の保険
養育中の里子がケガをしたり、または里子が他人にケガをさせたり、他人の財物に被害を与えてしまったような場合には、「里親保険」が利用できますので、速やかに児童相談所に連絡することが大切です。
この保険は、通常は自治体や里親会で加入しているもので、個人賠償責任保険、生産物賠償責任保険、施設賠償責任保険の3種類の保険がセットになったものです。
個々のケースにもよりますが、具体的には次のような場合に保険金が支払われます。
施設賠償責任保険
里親の住居や業務遂行が原因で、養育している里子や他人にケガをさせた場合など
例:住宅の欠陥が原因となって里子がケガをした、里子が遊んでいて隣家の窓ガラスを割ってしまった
生産物賠償責任保険
里親が提供した食べ物が原因で、養育している里子や他人が病気やケガをした場合など
例:里親が作った食べ物が原因で、里子が食中毒にかかった
個人賠償責任保険
12歳以上の責任能力のある里子が他人にケガをさせたり、財物に被害を与えた場合など
例:責任能力のある里子が自転車で他人に衝突してケガをさせた
ただし、当然の話ですが、里親が故意に里子にケガをさせた(児童虐待)ような場合などには保険金は支払われません。
里子の扶養にかかる扶養控除
納税者に16歳以上の扶養親族がいる場合には、一定金額の所得控除が受けられます。これを扶養控除といい、所得税法上の扶養親族に該当するのは、次の4つの要件のすべてにあてはまる人とされています。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること。
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
このことから、通常であれば養育している里子についても扶養親族とみなされ、扶養控除の適用の対象となりますので、児童相談所から「児童委託証明書」を発行してもらい、年末調整または確定申告の際、証拠書類として添付します。
全国里親会への寄附にかかる寄附金控除
里親としての生活そのものには関係しませんが、里親制度の普及発展を目的に設立された「全国里親会」に対する寄附については、税法上、「特定公益増進法人に対する寄附金」として扱われるため、個人であれば所得控除または税額控除のいずれか有利な方法で控除を受けることができます。申告の際には、「確定申告用領収証」と「税額控除に係る証明書」の提出が必要となります。
里親のレスパイトケア
里親の一時的な休息のための公的な援助のことを、「レスパイト・ケア」とよんでいます。これは、里親が旅行などで気分をリフレッシュさせたり、冠婚葬祭で面倒が見られないときなどに、里子を乳児院、児童養護施設や他の里親の元に一時的に預けるための制度で、費用は無料となっています。
この制度を利用できる日数については、それぞれの都道府県ごとに定めることになっていますが、一般には年間を通じて7日以内程度となっており、利用する際には児童相談所に申請書を事前に提出します。
里親会とは
里親会とは、里親同士で組織する互助グループのようなものです。通常は都道府県内の各地区ごとに置かれており、さらに都道府県全域を包括する連合会や、全国里親会のような全国規模の組織もあります。
こうした里親会では、先輩里親の体験談を聴いたり、里子の養育に関する問題を話し合ったりして、相互の交流や技術の研鑽に努めています。
全国里親会などの規模の大きな組織では、里親制度に関する行政への政策提言や、各種の刊行物の発行による情報提供なども行っています。
里親制度と関係機関
里親として里子を養育する上では、さまざまな機関との関わりが生まれます。特に関わりの深い機関としては、次のようなものがあります。
児童相談所
児童相談所は、里親としての登録、里親・里子のマッチングなどの初期の段階から大きく関わってきます。ここには担当の児童福祉司がおり、定期的な家庭訪問によるアドバイスなどもあります。
福祉事務所
福祉事務所は、都道府県、市町村に置かれていいる福祉の総合窓口です。児童相談所とともに家庭訪問などに同行することもあります。また、家庭相談室を開設しており、専門の家庭相談員も配置されています。
民生委員・児童委員
民生委員は児童委員を兼ねており、市町村内の各エリアごとに置かれ、さまざまな地域での相談ごとに当たっています。なかでも児童福祉に関することがらを専門的に担当する人は主任児童委員とよばれいます。
保健センター
各市町村には保健センター、ヘルスケアセンターなどの施設があり、乳幼児健診や予防接種などの保健事務を行っています。また、保健師が常勤で配置されているため、発育相談などの相談にものってもらえます。
学校
里子が学齢期を迎えると、学校での生活は里子にとって大きなウエイトを占めるようになります。このため、児童相談所とともに、学校、特に担任教師への相談・連携が不可欠になります。
養子縁組制度
里親制度と関連する制度に「養子縁組」の制度があります。実際のところ、里親として一定の期間子供を養育した後で、その子供と養子縁組をするという里親も、昔から多くみられるところです。
しかしながら、もともと養子縁組制度は民法、里親制度は児童福祉法を背景として成立したものであるため、かなり内容を異にする部分もあります。
里親制度の場合、あくまでも里子は他人の子供にとどまり、原則として18歳(延長者は20歳)を過ぎれば関係は解消されてしまいますが、養子縁組制度では法律上の親子関係が発生するため、離縁をしない限りはその関係が継続します。
このように、里親制度と養子縁組制度とは、法律上の親子関係が発生するかどうかに大きな違いがあります。
普通養子縁組
普通養子縁組は、子供のない夫婦が他の家庭から子供を迎え、家を継がせるという目的で古くからよく行われてきたもので、養子になる人と養親になる人との契約関係によって成立するものです。ただし、未成年の場合については家庭裁判所の許可が必要です。
養子縁組の効力は、市町村役場に届出をすることによって成立し、これにより法律上の親子関係が形成されます。養子は養親の財産の相続権を得るとともに、親の扶養義務を負うことになります。ただし、普通養子縁組の場合は、実親との親子関係もそのまま継続されることになります。
特別養子縁組
普通養子縁組が契約によって法律上の親子関係が成立するのに対し、家庭裁判所の審判によって親子関係が成立するのが特別養子縁組の制度です。
基本的に特別養子縁組では実親の同意が必要ですが、父母による虐待や悪意の遺棄があった場合には、実父母の同意は不要とされており、そもそも児童虐待からのセーフティーネットとしてこの制度が導入されたという背景もあります。
特別養子縁組が成立すると、実親との親子関係は終了し、実親との間の相続権はなくなりますが、扶養の義務も消滅します。このため、普通養子とは異なり、養親との間柄は、ほぼ実子に準じた関係となります。
普通養子縁組が離縁によっていつでも親子関係を解消できるのに対し、特別養子縁組の場合には、養親による虐待などの特別な事情がない限り、原則として関係の解消は認められていません。
全国の里親の数
厚生労働省(現在は内閣府の外局である「こども家庭庁」に移管)では、社会福祉行政運営のための基礎資料を得ることを目的として、各都道府県などに対して、さまざまな項目にわたる統計データの提出を求め、これを月ごと、年ごとに集計しています。
この統計資料のことを「福祉行政報告例」と呼んでおり、国のホームページから誰でもデータを閲覧することができます。
これによれば、令和4年度末時点での全国の登録里親数は15,607人、うち委託を受けている里親は4,844人、委託されている里子の児童は6,080人となっています。
年度 | 登録里親数 | 委託里親数 | 委託児童数 |
---|---|---|---|
2017 | 11,730 | 4,245 | 5,424 |
2018 | 12,315 | 4,379 | 5,556 |
2019 | 13,485 | 4,609 | 5,832 |
2020 | 14,401 | 4,759 | 6,019 |
2021 | 15,607 | 4,844 | 6,080 |